【騎士団長殺し】小ネタ:ペンギンとカジキとシロクマと
ごきげんよう、祈(いのり/inori)です。
実はフェンシング経験者。
以前の記事▼で「動物ネタをもう一本」と言っていながら書いていないことを思い出したので、今回は動物ネタで、村上春樹『騎士団長殺し』。
(2022年12月10日現在)最新の長編小説ですね!
▼以前の記事はこちら
今回は”考察”というほど筋の通った論ではないので(まあいつもそうなんですけど…)、タイトルは「小ネタ」とさせていただきました。
お手すきの際に、気楽に眺めていただけたら嬉しいです!
【この記事で言いたいこと】
『騎士団長殺し』に登場する3種類の生き物(ペンギン・カジキ・シロクマ)には、裏の意味合いがあるのではないか
(以下、「騎士団長殺し」のページ数に関するすべての記載は、新潮社単行本に拠ります。)
[目次]
◆3種類の海洋生物
◆シロクマ=主人公とすると…?
◆なぜカジキでなければならないのか
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◆3種類の海洋生物
『騎士団長殺し』には、少なくとも3種類の海洋生物が登場しますね。
1)ペンギン…秋川まりえが持っていたストラップ。主人公が渡り賃として顔のない男に渡す。
2)カジキ…白いスバル・フォレスターに貼られていたステッカー。
3)シロクマ…主人公が妻からもらった手紙に同封されていたポストカード。
これらの生き物ですが、実は生息域という観点で見ると、面白いことがわかります。
1)ペンギン…(例外はあるが)多くは南極の生き物。北極には生息していない。
2)カジキ…東南アジアからオーストラリア海域、太平洋およびインド洋の暖海部に広く分布。
3)シロクマ…北極に生息。
図に表すと以下の通り。
…どうでしょう?キレイに生息域が分かれていることが読み取れますよね。
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◆シロクマ=主人公とすると…?
さてここで、『騎士団長殺し』31章を見てみましょう。
(p.499 l.13-14)たしかにある意味では、私は流されゆく氷山に取り残された孤独なシロクマなのだ。
このように、主人公の「私」は、自身をシロクマに重ねています。
これを先ほどの生息域の図にも重ねると、以下のように考えることができそうです。
村上春樹作品ではもはやお決まり?となった”冥界下り”の要素ですが、それを常に新しいパッケージで見せてくるのはさすがですね。
最後に、もう少しだけ深読みをして終わろうと思います。
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◆なぜカジキでなければならないのか
わたしはご存知の通り面倒臭い性格なので、上記の読み方に気がついた時にこう思いました。
これ、カジキじゃなくてもよくない? と。
つまり、図でいう②のエリア、世界的に分布する海洋生物であれば、別にカジキでなくてサバでもカニでもいいのではと考えたわけです。
ところがすぐにこの考えは誤っていることに気がつきました。
カジキ(メカジキ)の英語名はSwordfish、「剣の魚」なのです。
本作では、2つの世界を行き来する際の儀式として、騎士団長を刺殺することが必要とされました。
つまり、カジキは騎士団長を殺すための剣を表しているのではないかというのが、わたしの考えです。
ちなみに、カジキの学名(ラテン語)は、Xiphias gladius。
Xiphias=「カジキ」、 gladius=「グラディウス」。
そう、古代ローマ時代に剣闘士に用いられた剣の名前、グラディウスです。
騎士団長のイメージにピッタリですよね。
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ここまで計算であれば、村上春樹恐るべし!
もし偶然であれば、それはそれで運命力というか、語られるべき物語が掬い上げられた感じがして、良いですよね。
それではまた次回の記事(12/18)でお会いしましょう。
今日の蛇足)水族館で、窓ガラス越しに4羽くらいのペンギンに睨みつけられたことがあります。不良の集団に取り囲まれた感じ。
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