【自分語り】オタク回:#名刺代わりの村上春樹作品10選について
ごきげんよう、祈(いのり/inori)です。
実は細々とTwitterもやっているのですが、先日こんなタグを見つけまして。
これはやるしかない!ということで、わたしも便乗させていただきました▼
実はこのタグを見つけるまで、自分の中で好きな順のランキングを考えたことはなく(←初読者おすすめ順は作りましたけどね。反響多くて嬉しかったです♪)、
いい機会なのでブログでも残しておこうと思いました。
ということで今回は特別編!個人的好きな作品TOP10と、各作品への思い入れのようなものを語っていくゴリゴリのオタク回です。
春樹作品って(というより読書全般そうかも?)、そのときの読み手の心境によって響く部分が変わることが魅力の1つだと思っています。
後々見返した時に「あ、当時はこんな心境だったんだな」と思い返せるかなと…ほぼ日記ですね。
めちゃめちゃ長いので、気になる箇所だけ拾い読みしてくださいませ。
それから、考察とか一切ございませんので、そのつもりでよろしくお願いします!
(以下、10位から書いていくため、上記画像の投稿順とは逆になることをご了承ください。)
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◆10位:日々移動する腎臓のかたちをした石
[基本情報]
◯初出は『新潮』2005年6月号。
◯短編集『東京奇譚集』収録。
◯あらすじ…「男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。それより多くもないし、少なくもない。」16歳のとき、父親からそう告げられた淳平は現在31歳の小説家。ある日、知人のパーティで年上の女性・キリエと親しくなり…
[好きな理由など]
これはひとえに考察が捗るからという理由が大きいですね。
登場人物の設定が明らかに短編「蜂蜜パイ」と関連していますし、『海辺のカフカ』的要素も見られるし、『東京奇譚集』という作品全体で見たときの気になりポイントもあるし…ということで、わたしにとっては知恵の輪としての魅力度が高過ぎました。近いうちに考察記事にします!
加えて、単純に物語としても魅力的ですよね。ちょっと恋活・婚活っぽいというか。
選んだお相手が理想のお相手かどうかの期待値は、確率論的に計算することができるそうですが<√n(n:一生のうちに出会うお相手の数)+1人以降の人が、√n人の人たちよりステキだと思ったらその人が理想の相手である可能性が高い、とかだったはず>、
自分が一生のうちに出会うお相手の数がわかっていないと成り立たないんですよね。
「見逃すべきか、あるいはスイングするべきか?」という淳平の戸惑いがちょっと理解できなくもない…かな?
スイングしたとて自打球がいいとこであろうわたしからすれば、羨ましいお話。
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◆9位:木野
[基本情報]
◯初出は『文藝春秋』2014年2月号。
◯短編集『女のいない男たち』収録。
◯あらすじ…親しくしていた同僚と妻の不倫現場を目撃したことを皮切りに会社を退職した木野は、伯母から店を引き継ぐかたちでバーを開く。猫、坊主の男、(元)妻…とさまざまな存在が行き交うバーに、やがて秋がやってくる。
[好きな理由など]
これも考察が捗るからという理由が大きいです。特になんとも言えない神話性がたまりません…!
春樹作品って、どちらかというと西洋的な神話感を持っている作品が多いイメージなのですが、これはなんとなく日本神話的空気を感じるんですよね…日常の隙間にぬるっと入り込んでくる感じが、神の世界と人間の世界を厳密に分ける西洋的なものとは違うのではないかと。
それから、傷つくべき時に傷つかないと後にひずみがでるという、春樹作品に時折見られるテーマがはっきり示されている点も好きです。
わたしたちはしばしば「傷ついていないよ、平気平気!」と強がってしまいますが、たまには弱いところを見せてもいいのかもしれないですね。
…ハァ、社畜生活やめて、木野みたいなバーやっちゃおうかな〜!←お酒飲めないけど
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◆8位:踊る小人
[基本情報]
◯初出は『新潮』1984年1月号。
◯短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』『象の消滅』などに収録。
◯あらすじ…ある時から「僕」の夢には小人が登場するようになる。勤めていた工場に入ってきたとびきりの美人に踊りの誘いを断られてしまったその夜、夢の中にまた小人が現れて、「頼みがあるんじゃないの?」と尋ねてきて…
[好きな理由など]
ランクインの理由は考察が捗るから。こればっかりですね、済みません…
同じ人が選んでいるんだからそれはそうか…
ただ、この作品ならではの特徴として圧倒的な寓話性が挙げられると思います。『グリム童話』とかに入っていても違和感のないレベル。
そして、そのような世界観でありながら、物語の”お約束”を破壊しているんですよね。
初めて読んだときからこのミスマッチ感がずっと引っかかっていて、非常に心に残っている作品です。近いうちに記事にすると思います。
「踊り」とか「象工場」とか、原理主義者なら必ずハッとするモチーフが多いこともポイント。
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◆7位:スプートニクの恋人
[基本情報]
◯あらすじ…22歳のすみれが生まれて初めて恋に落ちた相手は、17歳上の既婚女性「ミュウ」。小学校教師の「ぼく」も大学ですみれと知り合って以来、すみれに恋をしていたが…
[好きな理由など]
ここに来てはじめて長編小説がランクイン!
理由は2つ。①ギリシャの描写が美しいこと②圧倒的に刺さる文章があることです。
①について、村上春樹先生は本当に風景の描写がお上手ですよね(当たり前)。
『雨天炎天』に、実際にギリシャの島を旅行された際の紀行文も載っているので読んでみてください。旅したくなる!
そして②。大袈裟でなく、わたしの人生に影響を与えてくれた文章がこちらです。
(p.179 l.1-7)わたしたちは素敵な旅の連れであったけれど、結局はそれぞれの軌道を描く孤独な金属の塊に過ぎなかったんだって。(中略)ふたつの衛星の軌道がたまたまかさなりあうとき、わたしたちはこうして顔を合わせる。あるいは心を触れ合わせることもできるかもしれない。でもそれは束(つか)の間のこと。次の瞬間にはわたしたちはまた絶対の孤独の中にいる。いつか燃え尽きてゼロになってしまうまでね」
はい、最高。神。言葉が続きませんよ…
わたしは(恋人や友人に限らず)理想的な人間関係を”公倍数的人間関係”と勝手に呼んでいるのですが、それを美麗に言い換えていただくとこうなるのでしょうね。それぞれの軌道・ペースを保ったままで、重なり合う瞬間だけは一緒にいましょうよ、という関係。
わたしは嫌な子供だったので幼少期からこのような考えを持っていて、それをしばしば非難されたものですが、この文章に出会って本当に救われました。「ほら、村上春樹だって言ってるじゃん!」って言えますからね(笑)。100万の味方を得た思いです。
それに、この考え方って悪いものではないと思うんですよね。重なり合う瞬間が一瞬だとわかっているからこそ、その間は相手のことを大事にするし、たとえ相手を受け入れられずとも「まあ一瞬だし」と思って、衝突なく穏やかに過ごせる。
自分語りが過ぎましたね、続きます!
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[基本情報]
◯初出は2013年4月12日。文藝春秋より刊行(奥付の発行日は4月15日)。
◯あらすじ…多崎つくるは高校時代、名前に色が入った4人と行動を共にしていたが、大学2年のある日、一方的にグループから追放されてしまう。時は流れ、36歳になったつくるは2歳上の女性・沙羅と親しくなり、過去の出来事を打ち明ける。
[好きな理由など]
長編小説が続きます。
選出理由は①感情移入のしやすさ②灰田のキャラ③最後のエリのセリフあたりでしょうか。
①についてはあまり賛同を得られないことが多いのですが(笑)、わたしは結構つくるの行動原理に納得・共感する部分があるので、読みやすかったです。
7位の『スプートニク』が文章、後に登場しますが4位の『ノルウェイの森』が特定のパートが好き、という選出理由なので、物語全体という目で見るとこの『多崎つくる』が一番好きかもしれません。
②について。好きなんです、灰田くん。
わたしも「ひとつの場所に縛りつけられることが好きじゃありません」し、自由を奪われたら「必ず誰かを憎むようになり」ますもん。
一晩語ろう、灰田くん。美味しいご飯を作っておくれ。皿洗いまでやってくれると嬉しいな。
そして③は言わずもがな、ですね。
(p.323 l.4-16)「つくる、君はもっと自信と勇気を持つべきだよ。(中略)ぜんぜん空っぽなんかじゃない」(中略)「たとえ君が空っぽの容器だったとしても、それでいいじゃない」(中略)「もしそうだとしても、君はとても素敵な、心を惹かれる容器だよ。(中略)それなら君は、どこまでも美しいかたちの入れ物になればいいんだ。誰かが思わず中に何かを入れたくなるような、しっかり好感の持てる容器に」
何度読んでも励まされる、これぞ名文。
春樹作品に登場する人物は、空虚さ・何者でもない感に悩みつつ、それが作中では明確に解決しないことが多いと思います。そんな中、”空白のままでいい”と語りかけるエリのセリフはとても珍しいのではないでしょうか。
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◆5位:独立器官
[基本情報]
◯初出は『文藝春秋』2014年3月号。
◯短編集『女のいない男たち』収録。
◯あらすじ…「僕」のジム仲間・渡会(とかい)は、52歳の医師で、結婚歴なし。複数のガールフレンドを抱える優雅な独身生活を謳歌していたが、16歳年下の既婚女性に思いがけず深く恋してしまい…
[好きな理由など]
再び短編から。『女のいない男たち』の収録作品は、タイトル通りのどことない”喪失感”がいいですね。
本作の選出理由は人生の1つの完成形だと思うから。恋に殉ずるなんて、ちょっとステキじゃないですか。わたしが死ぬ時はこれか、マセラティで海に突っ込むかですね。
といってもこの話の場合はお相手がアレですし、自分もやりたいか?と聞かれると悩みますが…
知識や教養が深い人が好きなので、そういう部分は自分も取り入れたいなと思います。
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◆4位:ノルウェイの森
[基本情報]
◯初出は1987年9月4日。講談社より刊行。
◯あらすじ…37歳のワタナベは学生時代を回想する。直子、キズキ、緑…もう戻らない時代と、戻らない人々。生と死の渦の中で、ワタナベは翻弄されていく。
[好きな理由など]
わたし的長編小説1位がこちら、『ノルウェイの森』です。言わずと知れた代表作ですね!
ただ、この作品をわたし的1位に置くことには若干の迷いがありまして…
というのも、物語全体ではなく、特定のパートが好きという選出理由だからなんです。
具体的にいうと、下巻第8章・永沢さんの就職祝いのパートが大好きです。
事あるごとに読み返していて、誇張抜きに20回以上読んでるんじゃないかな…
これもあまり賛同を得られないのですが←こんなのばっか(笑)
永沢さん、ステキじゃないですか?
他人に後ろを見せるくらいならナメクジだって食べる、徹底したストイックさに本当に憧れます。
「不公平な社会というのは逆に考えれば能力を発揮できる社会でもある」
「自分と他人とをきりはなしてものを考えることができる」
「人が誰かを理解するのはしかるべき時期が来たからであって、その誰かが相手に理解してほしいと望んだからではない」
最っ高!わたしも負けていられない、強くならなきゃ!
世界に何人いるのかわからない、わたしは『ノルウェイの森』を自己啓発本として読んでいる人間なのでした。
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◆3位:鏡
[基本情報]
◯初出は『トレフル』1983年2月号。
◯短編集『カンガルー日和』収録。
◯あらすじ…60年代末、肉体労働をしながら放浪生活を送っていた「僕」は、ある中学校の夜間警備の仕事を得た。ある日の見回り中、暗闇の中に何かの姿を見た「僕」が懐中電灯で照らした先には、「僕」がいた。鏡があったのだ。
[好きな理由など]
この作品はわたしにとって、村上春樹作品の楽しみ方を教えてくれた作品です。
少し自分語りをさせてください。←さっきからしているけど…
わたしが初めて読んだ村上春樹作品は『ノルウェイの森』でした。中学校3年生のとき、学校の図書室で見かけて「聞いたことあるタイトルだな」という理由で手に取ったのです。
しかしながら、当時は何を言っているのかさっぱり分からず、以来数年、春樹作品からは距離を置いていました。
転機が訪れたのは大学に入った時。
講義一覧の中に「村上春樹を読む」という講義がありまして、「せっかくだしリトライしてみよう」と思って出席させていただきました。大学最初の授業でした。
加えて、「春樹作品ってこうやって読めばいいんだ」という汎用的な読み方・コードのようなものもなんとなく理解することができ、大学というのは、ひいては学問というのはなんてステキなんだろうと思ったことをよく覚えています。字義通りの”啓蒙”、世界がパッとひらけて輝くあの感覚は、わたしの人生の中でも指折りの素晴らしい体験でした。
ということで、春樹作品の素晴らしさ、学問の素晴らしさに気付かせてくれた「鏡」が第3位!
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◆2位:品川猿
[基本情報]
◯短編集『東京奇譚集』書き下ろし。
◯あらすじ…安藤(旧姓:大沢)みずきは、ときどき自分の名前が思い出せなくなる現象に悩まされていた。品川区役所で「心の悩み相談室」が開かれているという記事を目にしたみずきは、カウンセラー・坂木の面談を受けることにする。
[好きな理由など]
この作品を好きな理由は3つ。
①名前を盗む猿がいるという設定の秀逸さ
②登場人物のキャラ立ち
③最後の1文
です。
①について、これは本当に秀逸ですよね。名前を盗む猿が都会にいて、しかもそれが名前に付帯する要素も一緒に取り去るという設定。
小説という形態を取っていますが、設定そのままで見せ方を変えたら映画や漫画にもできそうな気がしてきます。主人公が実はピンポイントで名前を盗られていて、都合のいい間違った記憶を覚えていた…とか、バトルものにして、実は主人公本来の能力があったのだ…みたいなね。厨二病で恐れ入ります。
②も①と合わせて、この作品のエンタメ的面白さに一役買っていると思います。お猿もどこか憎めないし、坂木夫妻や桜田くんも面白い。桜田くんみたいな脳筋タイプは嫌いじゃないです。
そして③。ここが個人的には一番の推しポイントかもしれません。
(p.246 l.7-9)ものごとはうまく運ぶかもしれないし、運ばないかもしれない。しかしとにかくそれがほかならぬ彼女の名前であり、ほかに名前はないのだ。
『東京奇譚集』という作品集がこの1文で終わることも相まって、読後感がとても爽やかで、勇気付けられますね。与えられたパーツでやっていくしかない。
以上、エンタメ的面白さと、勇気付けられる読後感がステキな「品川猿」が第2位!
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◆1位:蜂蜜パイ
[基本情報]
◯短編集『神の子どもたちはみな踊る』書き下ろし。
◯あらすじ…小説家を志し、早稲田大学文学部に進学した淳平は、同じ学部の高槻、小夜子と友人になる。淳平は小夜子に恋をしていたが、小夜子は高槻と結婚し、娘の沙羅を授かる。しかしその後、高槻と小夜子は離婚してしまい、淳平を交えたやや奇妙な4人の関係がスタートすることになる。
[好きな理由など]
ついに1位!書き下ろし短編「蜂蜜パイ」です。
この作品が好きな理由を短くまとめることは難しいのですが、強いて挙げるなら
①考察が捗るパーツが多いから
②作者の思いが溢れ出てきていると考えられるから
ということになるでしょうか。
①については今更書くことは何もないです。
10位の「腎臓」とのリンク、熊のまさきちととんきちのエピソードが示唆するものなど、気になりポイントが満載!
絶対何かがあるのですが、まだ点と点をうまく繋げられていないので、日々もやもやしているところでございます。
そして②について。
この作品は、春樹作品の中で相当な異色作なのではないかというのがわたしの見解です。
阪神・淡路大震災、そして地下鉄サリンという圧倒的な暴力を下敷きに書かれた『神の子どもたちはみな踊る』。その最後に書き下ろしとして付け加えられた本作には、小説に何ができるかという問題に対する作者の素直な思いが溢れ出てきているように思えるのです。
(p.236 l.15-p.237 l.4)これまでとは違う小説を書こう、と淳平は思う。夜が明けてあたりが明るくなり、その光の中で愛する人々をしっかりと抱きしめることを、誰かが夢見て待ちわびているような、そんな小説を。(中略)相手が誰であろうと、わけのわからない箱に入れさせたりはしない。たとえ空が落ちてきても、大地が音を立てて裂けても。
ということで、小説家・村上春樹の思いが伝わる「蜂蜜パイ」が第1位!
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以上、お読みいただいたみなさま、本当にお疲れ様でした!
ひたすら自分語りで恐縮ですが、まあたまにはいいですよね…?
次回は1/22(日)更新予定です!
>今日の蛇足
ちなみにわたしは漫画も大好き。
BLEACHオタク、黒執事オタクでもありますので、同志の方、仲良くしましょう(笑)
卍解!
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