祈(いのり/inori)の手控え

本の考察(もとい妄言)を気ままに書く手控えです。 村上春樹作品多めの予定。

【1Q84】考察:天吾は何も見えていない”ネズミ”なのではないか(BOOK2/3)

ごきげんよう、祈(いのり/inori)です。

好きな世界史用語は”ウパニシャッド哲学”です。

←意味は忘れてしまいましたが(奥義書でしたっけ?)、音の響きがかっこいいですよね。わたしも1つくらいウパニシャッドを使いたいです。

 

今回も引き続き村上春樹1Q84』に登場する天吾のガールフレンド(=安田恭子)が、実は教団側のスパイなのではないかという話を書いていきます。

 

【この記事で言いたいこと】

天吾のガールフレンド(=安田恭子)は、実は教団側のスパイなのではないか

 

【根拠】

  1. 牛河が天吾の内情を知りすぎているから ←前回の内容。気になる方は以下リンクから

     

    inori-book.hatenablog.com

     

  2. タマルが語る”菜食主義の猫とネズミの話”の真意が表れていると考えられるから ←今回の内容
  3. 1Q84』の登場人物は名前に法則性があり、その法則に当てはめると牛河と安田恭子がリンクするから ←次回の記事の内容

ではさっそく。

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(以下、『1Q84』のページ数に関するすべての記載は、新潮文庫単行本に拠ります。)

◆猫とネズミのエピソードとは?

みなさんは「菜食主義の猫とネズミが出会った話」と聞いて、ピンときますか?

これは『1Q84』BOOK2前編第5章、タイトルもズバリ「一匹のネズミが菜食主義の猫に出会う」にて、タマルの口から語られるエピソードです。

 

内容は以下の通り。

とあるネズミが猫に出くわしてしまうが、その猫は「自分は菜食主義だから肉は食べない。だから俺に出会ったのは幸運だ」と言う。

その言葉を聞いて安心するネズミだったが、次の瞬間、猫に襲われてしまう。

今際の際で「菜食主義というのは嘘だったのか」と問うネズミに対し、猫はこう答える。

「肉を食べないというのは嘘じゃない。だからおまえを連れて帰って、レタスと交換するんだ。」

 

…何の話?となりますよね。わたしもなりました。

あのクールな青豆さんも若干混乱したようで、「その話のポイントは何なの?」とタマルに聞いています。

 

それに対しタマルが「ポイントはとくにない。」と返してこのくだりは終了するわけですが、

わたしはここにタマルの(というより作者の?)巧妙なミスディレクションがあると思っています。

 

◆キーワードは「幸運」

どういうことか。

われわれ読者はタマルから「ポイントはとくにない。」と語られることで、”なんだこれ?”とは思いつつも一応は納得してしまうわけですが、実はタマルのセリフには続きがあります。

続きのセリフは以下です。

(BOOK2前編 p.139 l.9-10)「ポイントはとくにない。さっき幸運の話題が出たから、ふとこの話を思い出したんだ。(後略。下線は引用者)

つまり、前述の猫とネズミのエピソードを、タマルは「幸運」というキーワードから連想して語っているわけです。

では、猫とネズミのエピソードを「幸運」というキーワードで捉え直すとどうなるか。

わたしは、次のようになるのではないかなと思います。

【猫とネズミのエピソードのポイント】

・同じ「幸運」という言葉でも、意味するところは立場によって違う。

・一方にとっての「幸運」が、他方にとっても「幸運」な結果をもたらすとは限らない。

(例:猫にとっての「幸運」はレタスとの交換材料が手に入ることであり、ネズミにとっての「幸運」である命を失わないこととは一致しない)

 

◆「幸運」はどこに出てくるか

ここで、少し唐突ですが『1Q84』において、このエピソードの次に「幸運」という言葉が出てくる箇所を探します。

すると、次の章であるBOOK2前編第6章に見つかります。

(BOOK2前編 p.169 l.11-14)しかし安田恭子を相手にしているときには、それほど複雑な作業は必要とされない。彼女は天吾がどんなことを求め、どんなことを求めていないのか、とりあえず呑み込んでいるみたいだった。だから彼女と巡り合えたことを、天吾は幸運だと考えていた。(下線は引用者)

…つながりましたね(つながったのか?)

先ほどの「幸運」という観点で捉え直したポイントは以下でした。

・同じ「幸運」という言葉でも、意味するところは立場によって違う。

・一方にとっての「幸運」が、他方にとっても「幸運」な結果をもたらすとは限らない。

これを天吾と安田恭子の関係にあてはめるのであれば、

天吾にとっての「幸運」=安田恭子と巡り合えたことが、彼女の意味する「幸運」とは違うのではないか、

言い換えれば、安田恭子にとっての「幸運」に照らした場合、天吾は単なるパートナー以上の価値をもつのではないかと読むことができます。

つまり、教団側に与える情報源として、価値がある。

 

なかなかいない存在に巡り合えたことを幸運と捉えているネズミ(=天吾)と、

自分が欲しいものとの交換材料を手に入れたことを幸運と捉えている猫(=安田恭子)が重なって見えるのは、わたしだけでしょうか…?

ちなみに、天吾=ネズミであるとすると、そういえば『風の歌を聴け』などに登場する人物も「鼠」と呼ばれ、小説を書いていたなぁ…などとも思いましたが、これ以上は飛躍しすぎるため止めておきます。

 

1Q84』の安田恭子スパイ説もいよいよ次回でラスト!

引き続き妄想全開で書いていきますので、殊勝なかたはぜひお付き合いください。

 

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今日の蛇足)もし好きな野菜と交換できる券のようなものがあったら、わたしはトマトと交換します。次点でアボカド。

 

▼再掲:前回の記事です。

inori-book.hatenablog.com

▼次回の記事です。

inori-book.hatenablog.com